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ている人がいるではないですか。あなたのしていることはどういう意味を持っているのですかと聞かれたときに、「大海も一滴の水にすぎない。愛というのは1対1でなければ伝えられません」と答えております。私はこれはやはり感性だと思います。
私は日野原先生を見ていて感心するのは、夢を失わないということです。あのようにダイナミックな活動をしておられるけれども、実に静かにピアノを弾かれる。そういう感性ではないかと思いますが、感性が夢を生むのです。その夢が私どもに希望を与えるのです。希望の“望”という字は「新月を仰ぎ見る」という象形文字です。人間、アントロボスというのは上を仰ぎ見てやまない存在なのです。その私どもが夢をも持ち続けることを忘れてはならないことだろうと思っております。
特別養護老人ホームで長いこと寝たきりだったご老人が亡くなりました。亡くなられるときに寮母に「この次生まれ変わるときには世話をする人になりたい」と言ったのです。6年間寝たきりで世話になりっぱなしだったご老人のこれが切実な遺言です。「今度生まれ変わったらわたしが世話をするよ」
人が人に触れ、人が人を助け、人が人に仕える。人と人とが共に生きる。なんという喜びであり、人間的光栄なのではないでしょうか。本誌は、(株)ライフプランニングセンター主催の第22回公開講演会(1996年5月18日開催)「医療と福祉の接点」のうち「福祉から医療をみる」と題して講演された阿部志郎先生のお話をまとめたものです。

 

 

 

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